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人間のパターン誤認 2003/2/22 『人はなぜエセ科学に騙されるのか?(上)』 カール・セーガン著 より まだ宇宙船も望遠鏡もなく、人々が魔術的な考えに支配されていた時代には、月は大いなる謎であった。それが一つの天体だと考える者など、一人としていなかっただろう。 肉眼で月を見上げたとき、実際には何が見えるだろうか。見えるのは、明るい部分と暗い部分とまだらに入り組んだ模様にすぎない。とくに何かに似ているわけではないのだが、人間の目はどうしても、ある部分は強め、別の部分は弱めることによって、まだら模様を適当につなぎ合せてしまう。われわれはパターンを求め、それを見出すのである。神話や民間伝承を調べてみると、人々は月にさまざまなイメージを見ていることがわかる。布を織る女性、月桂樹の林、崖から飛び降りる象、背中にかごを背負った少女・・・、等々。よその国ではどうしてこうも奇妙なものが見えるのかと、首をかしげたくなるほどだ。
(中略)
人間というのは、ほかの霊長類と同じく、仲間といっしょにいるのが好きな動物だ。人間は哺乳類なので、親がこの世話をしなければ遺伝系統が途絶えてしまう。親が子に微笑みかけ、子が微笑み返すことは、親子のきずなを強めることに役立っているのである。幼児は目が見えるようになるとすぐに人の顔を見分けるが、この技能は人間の脳に組み込まれたものだということが、今ではわかっている。百万年前、微笑みかけてくる顔を見分けられなかった幼児は、親の愛情をうまくつかむことができず、成長して子を作るには不利だっただろう。今日ではたいていの幼児がすぐに人の顔を見分け、無邪気な笑顔でそれに応えている。 ところがこの技能を獲得したことで、思わぬ副作用が生じた。人間の脳のパターン認識能力があまりにも器用に顔を拾い出すため、ときにあるはずのない顔を見てしまうのだ。(中略)このような例には枚挙にいとまがない。 人は地形に顔を見ることもある。たとえば、ニューハンプシャー州のフランコニアノッチにある「山の爺さん」もそうだ。この顔は、超自然的な作用でできたものでもなければ、ニューハンプシャー州にあった古代文明の名残でもなく、岩の表面が浸食されて崩れた結果にすぎない。
(中略)
ときには、野菜や、木目や、牛の皮などが人の顔に見えることもある。リチャード・ニクソンそっくりだというので有名になったナスもあった。いったいそれは神の御業か、はたまた宇宙人の仕業か?それとも共和党がナスに遺伝子操作をしたのだろうか?いや、そうではない。あたりまえのことだが、この世にはナスがたくさんあるので、なかには誰かに似たナスもあるということだ。それがどれほど特別な人物の顔であったとしても。
(中略)
朝鮮人参とマンドレークの根には、魔術的な性質があるとされてきた。それというのも、その形が何となく人体に似ているからだ。
(中略)
パターンのでっちあげのなかで最も有名なのは、おそらく火星の運河の一件だろう。この運河は、1877年に最初に観測されて以来、世界中のプロの天文学者が大きな望遠鏡を使って熱心に調べ上げ、きちんと確認されたかにみえた。火星の表面には、一重や二重の線が網の目のように張りめぐらされ、しかもそれが非常に規則正しい幾何学的模様になっているとされた。その規則性はあまりに超自然的で、知的生命体が作ったとしか思えないほどだった。ここから次のような結論が導かれた。このカラカラに乾ききった滅びつつある惑星には、われわれよりも長い歴史と高度なテクノロジーをもった文明が存在し、水源の維持に全力をあげているにちがいない、と。学者たちは数百もの運河を地図にして、それぞれに名前をつけた。ところが奇妙なことに、そうした運河は写真では見えなかったのだ。そこでひねり出された説明は、人間の目ならばほんの一瞬大気を透かして見える運河が捉えられるのに対して、識別力のないカメラの感光版にはそれができないため、ボケた写真にしかならないというものだった。運河をこの目で見たという天文学者もいたが、見えない人も多かった。ひょっとすると、運河を見るのが得意な人がいたのかもしれない。それとも、すべては知覚のいたずらだったのだろうか。
(中略)
アポロの月着陸のころには、小型望遠鏡の持ち主や、熱烈なUFO研究家や、航空宇宙学誌のライターなどたくさんのアマチュアたちが、NASAの科学者たちや天文学学者がうっかり見落とした超常現象はないかと、目を皿のようにして月の写真を調べたものだった。ほどなく、さまざまな「発見報告」が出はじめた。巨大なラテン文字やアラビア数字が月面に刻まれているとか、ピラミッドや高速道路や十字架が見えるとか、光を発する乗り物が走った跡があるとか・・・。
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